
ゲーム概要
このゲームは特徴的な5角形のタイルを使った、4色地図問題をベースとしたタイル配置ゲームです。複雑なタイル配置で高得点を狙ったり、連続手番を狙ったり、最大ブドウ畑のボーナスを狙ったり、
様々な手段で点数を稼ぐパズルチックなゲームです。
写真はサンプルです。製品仕様はエンボスのかかった2㎜厚のタイルです。

ゲーム情報
プレイ人数:1~5人
プレイ時間:30分前後
対象年齢:12歳以上
クレジット
ゲームデザイン:佐藤敏樹
デザイン協力:佐々木隼(オインクゲームズ)
イラストレーション:ユミ ヤオシダ
アートワーク:たかみまこと
校正・校閲:西田誠
英語翻訳:サイゴウ
参考にしたゲーム
VOID (オインクゲームズ)
他サイトの情報
Board Game Geek
内容物
・貯蔵庫コマ(直径10mmの円形):45個
・タイル:4色(計80枚)
⇒紫:24枚、青、橙、緑:17枚
サマリー:5枚(うち1枚はスタートプレイヤーマーク付き)
・ワインカード:95枚
- 3タイル(一般)のカード:35枚
- 3タイル(高級)のカード:15枚
- 4タイル(一般)のカード:15枚
- 4タイル(高級)のカード:10枚
- 5タイル(一般)のカード:5枚
- 5タイル(高級)のカード:5枚
- 6タイル(一般)のカード:5枚
- 6タイル(高級)のカード:5枚
・最大葡萄畑ボーナスカード:5枚
・手番カウンターカード:1枚
・袋:1つ
ルール
日本語ルール世界観
中世~近世のフランスボルドー地方の葡萄畑の開拓を描いたゲームです。
タイルはオレンジ色が街、緑色が森、青が川や湖、紫が葡萄をイメージしています。
千年以上の歴史あるワイン作りです。歴史を感じながら遊んでいただけたら幸いです。
ボルドーの歴史
1. 古代(紀元前~5世紀)
紀元前1世紀頃:ローマ人がブドウ栽培を導入。
2. 初期中世(5世紀~10世紀) 【小説第一章】
修道院が中心となり、宗教儀式用に栽培を継続。
3. 盛期中世(11世紀~15世紀)
イギリスへの輸出が急増。
4. ルネサンス~近世初期(16世紀)
ガラス瓶とコルクの普及で熟成が可能に。ワインの品質向上が始まる。
5. 近世(17世紀~18世紀) 【小説第二章】
メドック干拓(17世紀):オランダ商人が湿地を干拓。シャトー文化の形成、輸出市場拡大。
6. 産業革命期(19世紀前半) 【小説第三章】
1855年パリ万博:メドックとソーテルヌの格付け制度が確立。
7. 危機の時代(19世紀後半)【小説第三章】
フィロキセラ禍(1860年代~):ブドウ畑壊滅→アメリカ産台木で復興。
8. 近代(20世紀)【小説第四章】
第二次世界大戦後、世界市場で高級ワインとして確立。
9. 現代(21世紀)【小説第五章・六章】
グローバル化、テクノロジー導入(精密農業、サステナブル栽培)。
第一章 葡萄の祈り
朝もやの中、若い女が小さな葡萄の木に両手を合わせていた。
「風よ、陽を運び、雨を和ませ、果実を育てたまえ」
それが、この土地に古くから伝わる葡萄の祈りだった。
女の名はアデル。彼女の家は代々、村で葡萄を育て、地元の教会へワインを奉納してきた。この時代、ワインは、神への捧げ物という意味合いが大きかった。 彼女の父は、畑を「神の庭」と呼び、風の向きで天の機嫌を読んだ。南風は恵み、北風は試練。天候を測る道具などなく、ただ空と葡萄と語り合うようにして生きていた。
春、アデルは霜を避けるため、夜通し火を焚いた。夏、葉を間引きながら「光を信じろ」とつぶやいた。秋、葡萄を摘むときには、家族と村人たちが集まり、収穫の歌をうたった。神父が聖水をまき、最初の一房を教会へ運ぶ。そのとき吹く風を、村人たちは「ボルドーの息吹」と呼んだ。
ある年、疫病が村を襲い、人々の手から祈りが消えかけた。だがアデルは一人で畑を守り続けた。嵐の晩、葡萄の木を抱きしめながら言った。
「風が変わっても、わたしたちは生きる。葡萄もまた、風の子だから」
翌年、奇跡のように実りが戻った。村人たちはアデルを「風の娘」と呼び、その年のワインは特別に「ヴァン・デ・ヴァン(風のワイン)」と名づけられた。やがて、アデルの子らはこの土地に根を下ろし、彼女の祈りを受け継いだ。
第二章 海を渡る風(1700年代前半)
春のボルドー。丘の葡萄畑には、蜂の羽音と笑い声が満ちていた。
その真ん中で、長い髪をリボンで結んだ娘が裸足で走っていた。
「アメリ、樽を蹴るな!」
「いいでしょ、だって中身がないんだもの!」
アメリ・デュラン。二十歳。
シャトーの当主エティエンヌの娘であり、祖先アデルの血を引く者。
快活で、働き者で、少しだけ口が悪かった。
アメリの代になると、ボルドーの畑には新しい風が吹いていた。それは、海から来た風――オランダの船が運んできた潮の香りと、交易の夢だった。
港にはアムステルダムの商人が集まり、赤ワインの樽が山のように積まれていった。ドルドーニュ川の水面をすべるように、帆船が行き交う。アメリはその光景に目を奪われた。
「このワインが、海の向こうの食卓を赤く染めるって言うの? 信じられない……」
ある日、ひとりのオランダ商人がデュラン家の蔵を訪れた。名をジョナサン・フェアチャイルドといった。金髪を帽子で隠し、笑うと片目に深い皺が寄った。
「この土地の風は、葡萄を賢く育てるね。だが、もう少しだけ“勘”を補ってみないか」
彼は、アムステルダムの醸造所で使われているとされる温度測定器を見せた。まだ粗末な作りだったが、葡萄汁の発酵を見極める手助けになるという。アメリは目を丸くした。
「それは……祈りではなく、道具で葡萄を測るというの?」
「祈りを裏切るわけじゃないさ。むしろ、風の声を“聞き取る”ための耳だよ」
やがて二人は協働を始めた。収穫のタイミングを風と温度で判断し、発酵の様子を樽の音で見守った。アメリの父は眉をひそめたが、ワインの香りがいつもより深く、柔らかく仕上がると、ただ静かに頷いた。
そのワインは「風の娘」と呼ばれ、北欧へと出荷された。ジョナサンは海の向こうで売り込みに成功し、デュラン家の名は港町ボルドーに広まった。
アメリは、夜明けに丘の上で祈った。
「風よ、わたしたちの心を掻き乱しませんように。どんな時代も、あなたが運ぶ香りを忘れませんように」
第三章 鉄の風、葡萄の涙(1850〜1900)
アデルの血を引くマルセル・デュランは、丘の上から新しい光景を見ていた。ドルドーニュ川の向こうを、黒い鉄の獣――蒸気機関車が走っている。その煙は、まるで空を裂くようにボルドーの風を揺らした。
「風の音が変わったな」
「ええ。でも、ワインを運ぶには早い風です」とマルセルは笑った。
1853年、サン=ジャン駅が開通し、ボルドーは世界と鉄路でつながった。ワインは船だけでなく、列車でパリへ、ロンドンへ、ベルリンへ――。ボルドーの名前は、鉄の音とともに大地を越えて響きはじめた。
だが、その明るさの裏で、静かな嵐が近づいていた。1855年、ナポレオン三世の命によって「ボルドー格付け」が制定される。パリ万国博覧会で栄光を競うその舞台に、デュラン家の名は――なかった。
マルセルは、その知らせを受けた夜、葡萄畑の風の中に立ち尽くした。胸の奥では何かが崩れていく音がした。
それでも翌朝には畑に出た。土を掘り返し、根を見つめ、葉をさわった。砂と石灰の混じるこの土は、代々の手のぬくもりを吸い込んでいる。鉄の時代になっても、この畑だけは嘘をつかない。
だが、さらなる不幸がデュラン家を襲った。代々受け継いできた畑が枯れようとしていた。
原因は“フィロキセラ”――アメリカから渡ってきた虫。
根を食い尽くし、ボルドー中の葡萄畑が壊滅していた。
「土を変えろ? そんなことできるものか!先祖の畑を掘り返すなんて、狂気の沙汰だ」
年老いた労働長のジャンは怒鳴った。
マルセルは静かに答えた。
「狂ってでも、やるしかないんだ」
マルセルは夜ごとランプを灯し、虫の姿を拡大鏡で覗いた。
根の導管に噛みつき、汁を吸う様を観察すると、胸が締め付けられた。
「見ろ、ジャン。これは魔法じゃない、原因がある」
「虫のせいだと? じゃあ風は何をしてたんだ?」
「風は見ていた。でも救えはしない。だから人が救う」
マルセルはノートにびっしりと記録をつけた。
温度、湿度、土壌の性質、水の吸収率。それをもとに、隣村の学者に相談した。
「アメリカ種の根に接ぎ木をするんだ。 耐性を持つ台木に、フランスの枝をつなげる」
ジャンは唾を吐いた。
「そんな“異国の木”に頼るのか。魂が混ざる」
「魂があるなら、死なせない努力も魂さ。風を守るためなら、異国の根でも構わない」
接ぎ木の作業は地味で、地獄のように辛かった。
夜明け前から、マルセルはランプの下で枝を削った。
指先から血がにじんでも、手を止めなかった。
「この切り口が、未来への門になる」
そう呟いて、またナイフを握った。
秋の夕暮れ、ようやく若い葉が風に揺れた。そのとき、マルセルは亡き祖先たちの声を聞いたように思った。
「風は変わっても、葡萄の歌は変わらぬ」
その年、彼はワインのラベルに小さく刻んだ。
Vinum Ventorum(風のワイン)――格付けには載らなかったが、風の格付けには永遠に残る名前だった。
鉄の風が通り過ぎたあと、丘には再び静けさが戻った。その風の中には、蒸気の匂いと、古い祈りの残り香が混ざっていた。
第四章 灰のなかの芽(1918〜1952)
エレーヌ・デュランが生まれたとき、シャトーはまだ第一次世界大戦の戦禍の中にあった。父も兄も徴兵され、畑は女と老人たちで守られていた。
空を覆うのは冷たい淀んだ空気。風は、祈りの言葉を運ぶにはあまりに静かだった。
戦争が終わっても、すぐに平穏は訪れなかった。1939年、再び世界が揺れ、ボルドーの丘も第二次世界大戦の影に包まれた。働き手は少なく、収穫量は減り、作ったワインの多くはドイツ軍に接収された。 それでも、風だけは裏切らなかった。爆撃の夜にも、朝霧のあとにも、ボルドーの丘にはかすかに葡萄の香りが残っていた。
エレーヌは祖母のマリーとともに、壊れた蔵の前で種をまいた。
「花の根は、土がやわらかいうちに植えるものよ」
「でも、いまは雑草ばかりよ」
「それでもね。風が戻ってくるころには、きっと芽吹くわ」
戦争が終わるころ、デュラン家の畑は雑草に覆われていた。それを見たエレーヌは、涙をこらえて鍬を握った。
「この土は泣いている。戦争の重みを吸い込んで、静かに痛みを吐き出している。でも、その涙が染み込むことで、葡萄の芽はやわらかく目を覚ますのだ」
男たちが帰ってきたとき、シャトーではすでに再生が始まっていた。女性たちの手で植えられた新しい苗木が、春風のなかで小さく揺れていた。その光景に、父はただ黙って帽子を脱いだ。
「戦争で失ったものは多いが……この畑はまだ生きている」
デュラン家には代々祖先がつけた記録が残っていた。
「昔はこの丘にも、虫が来てね。それは大変だったものよ」と祖母はよく言っていた。
フィロキセラという虫が、ヨーロッパ中の葡萄を食いつくした時代の話だ。
倉庫を探すと、その時代の記録が見つかった。曾祖父のマルセルが書いたノート。
エレーヌはノートの最後のページをめくる。そこには、震える筆跡でこう記されていた。
もしまた困難が来ても、科学がきっと助けてくれる。
見えないものは敵ではない。敵は先へ進もうとしない心だ
エレーヌはワインづくりに、かつての祈りとともに科学を学びはじめた。
酵母の研究をしながら、夜ごと風の観測記録をノートに書き続けた。
「風向きは、葡萄の声。温度は、その気分。
数字にしても、香りを失わなければ、科学は祈りの延長線にある」
1952年の秋、祖母と蒔いた種が、七年の風を受けてようやく一樽のワインになった。樽の封を切ると、蔵いっぱいに青い風の香りが広がった。祖母マリーが目を閉じて言った。
「ほら、風が戻ってきたじゃない。あんたの手で」
その年、エレーヌはボトルの裏に小さくサインを書いた。
“Récolte de la Paix”――平和の収穫。それはデュラン家にとって、祈りでもあり、再出発の証でもあった。
丘の上の風車がゆっくり回り、鳥たちが帰ってくる。その風の音は、まるで遠い祖先たちの拍手のように、柔らかく続いた。
第五章 機械仕掛けの風(1970〜1980)
ジュリエット・デュランは、母エレーヌに似て強く、美しく、そして少しだけ頑固だった。彼女が成人した頃、世界は石油で動く機械の音に満ちていた。
トラクター、ポンプ、発酵管理装置――ワインづくりはもはや“職人の祈り”ではなく、“技師の設計”に近いものとなっていた。
けれど、1973年。オイルショックがその幻想を壊す。燃料価格が跳ね上がり、ボルドーの小さなシャトーたちは次々と経営難に陥った。電気代を払いきれず、発酵タンクの温度制御を止めるしかない夜、ジュリエットはロウソクの灯の下で母の古いノートをめくった。
《風の記録。温度16度、南東の風。葡萄の皮がよく歌う日。》
母エレーヌの筆跡をなぞりながら、彼女は気づいた。――ワインは風と温度で生きる。石油ではない。
次の日、ジュリエットは村の廃品置き場へ行き、古い風力ポンプと金属製の羽根を拾って帰った。
「燃料がないなら、風で動かせばいいじゃない」
それを聞いた従業員たちは半信半疑だったが、彼女は夜通しでポンプを改造し、発酵タンクの温度を風の力で制御しはじめた。
丘を渡る風が蔵の隙間を通り、温度計の針が静かに安定する。
「見てごらん、風がまた働いてくれてる」
「わたしたちの家は、やっぱり“風の家”ね」
やがて彼女の工夫は地元大学の教授に注目され、ボルドーの若い醸造学者たちが次々と見学に訪れた。
「君の蔵は、まるで生きているようだ」
「ええ、風が考えてくれるから」
経済危機を機に、デュラン家は自然と科学を融合させた醸造法を確立した。電力の代わりに風、化学肥料の代わりに微生物――。畑の微気候を読み取る“感性”が、再び職人の勘と科学を結びつけていった。
1980年、ジュリエットは新作のワインを市場に出した。ラベルには、母の時代の言葉が刻まれていた。
「Récolte de la Paix」の隣に、小さく添えられたもう一行。
「Le Vent Pense(風は考える)」。
批評家たちは、その柔らかくも芯のある香りを「風の知性」と呼んだ。格付けの上位には相変わらず入らなかったが、ジュリエットはただ静かに、丘の上で風を感じていた。
「数字に載らなくてもいい。風が覚えていてくれれば、それでいい」
秋の夕暮れ、葡萄畑を吹き抜けた風が、ふと笑ったように鳴った。それは、母エレーヌの声か、もっと遠いアデルの祈りか。ジュリエットはそっと目を閉じ、微笑んだ。
「ねえ、おかあさん。風がね、また歌いはじめたよ。」
第六章(最終章) 風の記憶、空の知恵(2000〜2026)
カミーユ・デュランは、幼いころから空を見上げるのが好きだった。ジュリエットの娘として、畑の風と発酵の香りに囲まれて育った彼女にとって、風はいつも“話しかけてくる存在”だった。
だが21世紀に入り、ボルドーの空には新しい鳥たちが飛ぶようになった。金属の羽根を持つそれら――ドローンたちは、気温、湿度、葉の色、土壌の水分を読み取り、風よりも速く、風よりも精密に畑を見つめていた。
カミーユは最初、それを冷たい機械だと思っていた。けれど、ある日、AIが分析したデータの中に、母ジュリエットが残した古い「風の記録」と同じリズムを見つけた。風速、気圧、気温――そして、収穫年の香りの傾向まで。まるでAIが、母や祖母の“手の記憶”を読み取っているようだった。
「もしかして、あなたは風の言葉を継いでるの?」
カミーユはモニターの光に向かってつぶやいた。
AIは彼女の質問に応えるように、一つの予測モデルを提示した。
――“来週、北風が戻ります。糖度は十分、収穫を早めてください。”
彼女は驚いて畑に出た。本当に、丘の上では早い北風が吹きはじめていた。葡萄の皮は陽を浴び、かすかに甘い香りを漂わせている。まるで風とAIが語り合って、彼女に知らせているようだった。
収穫の日、ドローンが空を旋回し、太陽の下で働く人々の笑顔を撮影していく。そのデータはクラウドに保存され、AIが「家族の作業記録」として自動で整理した。そこには、アデル、アメリ、マルセル、エレーヌ、ジュリエット、そしてカミーユ――千二百年にわたる風の系譜が、ひとつの流れとして繋がっていった。
ワインが完成した夜、カミーユは母のノートとAIのログを並べた。人の手の書いた数字と、機械が描いた曲線。二つの記録は、不思議なほどよく似ていた。
「おかあさん、あなたの“風の声”は、ちゃんと届いてるよ。
いまはAIが、それを代わりに聞いてくれてる。」
彼女は静かにワインを注ぎ、窓を開けた。丘を渡る風がグラスをなでるように吹き抜ける。外ではドローンが一機、夕暮れの中をゆっくり旋回していた。プロペラの音が、まるで昔の風車のように心地よく響く。
そのワインの名は、こう記された。
「Mémoire du Vent — 風の記憶」。
AIが醸造を支え、ドローンが空から畑を守る時代になっても、ボルドーの丘には、昔と同じ風が吹いている。数字の向こうで、アルゴリズムの隙間で、人と自然の祈りが静かに息づいている。
そしてその風は、また次の世代の誰かに語りかけるだろう。
「わたしの名はボルドー。
君たちの家族の声を、千二百年、運び続けてきた風だよ。」
